ロードセル入門
第3章 ロードセル用語、仕様、性能、試験方法
01. 概要
ロードセルの品質については各国独自の規格を設定し性能検査を行っています。
国内では計量法でロードセル独自の規格を設定していませんが、性能試験方法としてJIS(電気式ロードセル性能試験方法 JIS B7602)や JMIF[日本計量機器工業連合会]の 「ロードセルの性能試験方法」で規格化されています。
一方、OIML(国際法定計量機関)では 「ロードセル」 に関する計量法上の規制」という国際勧告を制定しています。
各国の規制は勧告と整合性をもつようになっています。この勧告は、はかりに使用するロードセルを前提としています。
その内容を要約すると非直線性とヒステリシスを総合して扱い、その誤差が所定の温度範囲内において決められた限界以内にあるかどうかで精度を評価する方式をとっています。
02. 一般仕様
001. 定格容量 (RL:Rated Load、RC:Rated Capacity)
ロードセルが設計上、その仕様を保って測定できる最大荷重です。
定格荷重とも言います。測定する荷物はこの範囲以下になる様に設計します。
002. 定格出力 (RO:Rated Output)
無負荷時の出力と定格容量時の差です。定格出力の単位としてはmV/Vを使用します。つまりロードセル印加電圧1Vに対する出力をmVで表現します。スパンと呼ぶこともあります。
図 3.1
003. 最大許容風袋(風袋)荷重 (Maximum deadweight)
測定する荷重以外にロードセルへ加わる最大の風袋荷重です。
図 3.2
はかりを設計する場合、皿などの風袋の荷重をこの範囲以下にしなければなりません。
図 3.3
004. 許容過負荷 (Maximum safe overload)
特性上、仕様を越える永久変化を生ずることなしに負荷できる最大荷重で定格荷重のパーセンテージで表します。
図 3.4
005. 温度補償範囲 (Compensated Temperature range)
定格出力と零バランスが、仕様を超えないように補償されている温度範囲。
006. 零点の温度影響 (Temperature Coefficient on zero balance)
周囲温度の変化に起因するロードセルの零バランスの変化。定格出力の%で表します。
007. 出力の温度影響 (Temperature Coefficient on rated output)
周囲温度の変化に起因する定格出力の変化です。
008. 非直線性 (Nonlineality)
校正曲線の無負荷点と定格負荷点(出力)を、結ぶ直線(出力)からの最大の偏りで、荷重増加時においてのみ測ります。定格出力の%で表します。
009. ヒステリシス (Hysteresis)
荷重増加時と減少時のロードセル出力差の最大値です。
010. 総合誤差 (combined error)
校正曲線の無負荷点と定格負荷点を結ぶ直線からの最大の偏りで、荷重の増加時と減少し両方を含みます。
011. 推奨/最大印加電圧 (Recommended/maximum excitation voltage)
ロードセルの入力端子に加えられる電圧です。
012. 零バランス (Zero Balance)
無負荷時、定格印加電圧を加えたときのロードセルの出力電圧。通常定格出力に対する%で表します。
013. 入力端子間抵抗 (Input terminal resistance)
無負荷で、入力端子を開いた状態で測る。ロードセルの入力端子の抵抗。
014. 出力端子間抵抗 (Output terminal resistance)
無負荷で、入力端子を開いた状態で測る。ロードセルの出力端子の抵抗。
015. 絶縁抵抗 (Insulation resistance)
ロードセル回路とロードセル本体の直流抵抗。
03. 負荷特性
負荷特性試験を行う場合は次のような準備を行います。
- 安定した環境で行う。
- 荷重条件を良好安定に保つ。
- 安定した電源でインジケータを使用する。
準備が終わったら少なくとも3回以上定格荷重を毎回無負荷に戻しながら繰り返し負荷します。次に初期出力電圧を読み取り、定格荷重を数等分した荷重点に同一の時間幅で負荷し各荷重で負荷が安定したら出力電圧を読み取ります。
定格荷重に達した後、段階的に荷重を取り除き出力電圧を読み取る。以上の手順を3回繰り返します。
001. ゼロバランス (Zero balance)
無負荷時、定格印加電圧を加えた時のロードセル出力電圧。通常定格出力に対するパーセンテージで表します。
002. 直線性 (Non linearity)
(ΔθLN:荷重増加の場合における各試験荷重に対する出力と基準値線の差のうち最大の値)
003. ヒステリシス (Hysteresis)
(Δθµn:荷重増加の場と荷重減少の場合における同一荷重試験に対する出力の差のうち最大の値)で計算された値です。
004. 再現性 (Repeatability)
(ΔθR:荷重増加の場合における同一試験荷重に対する出力の差の最大の値)
OIML では直線性とヒステリシスを分けずに全ての値が誤差範囲の中に入るかどうかで判断します。
図 3.5
04. クリープ特性
001. クリープ (Creep)
(θfa:負荷が定格荷重に達した直後の出力)
(θfb:負荷が定格荷重に達してから一定時間後の出力(OIMLの規定では30分後)
002. クリープ回復性 (Creep recoverability)
(θ0a:荷重を取り除いた直後の出力)
(θ0b:荷重を取り除いてから一定時間後の出力)
クリープ回復性についてはカタログなどに書かない場合が多いです。これはクリープとクリープ回復性はほぼ比例した結果が出るためです。クリープ特性のみを書き省略しているからです。
また、OIML ではクリープ回復性の規定はなく、その代わりにゼロリターンの規定があります。
これはθ0(荷重を加える前の出力)と θ0aとの差が規定されていることになります。
図 3.6
05. 温度特性
001. 温度補償範囲 (Conpensated temprature range)
定格出力とゼロバランス仕様を超えないように補償されている温度範囲。
002. 許容温度範囲 (Safe temprature range)
ロードセルに有害な永久変化を生ずることなしに使える温度範囲。
003. ゼロの温度係数 (Zero temprature effect)
(θ0a、θ0b:各温度での無負荷時の出力)
(Ta、Tb:試験温度)
で計算します。
004. 出力の温度係数 (Soab temprature effect)
(θfa、θfb:各温度での定格荷重負荷時の出力)
(Ta、Tb:試験温度)
で計算します。
ゼロの温度係数、出力の温度係数共に温度変化によって生ずるロードセル特性の誤差を表しています。
OIML では出力の温度係数は規定していないですが-10℃~40℃において図 3.5 誤差範囲内でなければなりません。
06. 電気的特性
推奨印加電圧、最大印加電圧、入力端子間抵抗、出力端子間抵抗、絶縁抵抗などがあります。
07. 四隅(よすみ)誤差
載せ台を表す図の○の位置にひょう量の約4分の1に相当する荷重をかけます。3000分の1のはかりの場合、○の荷重値と中心の荷重値との差が1カウント以内に調整していきます。
積面の大きさはロードセルの種類によって異なります。
08. その他の特性
第3章01~07はロードセルの仕様の代表的なものであり、カタログに書かれています。しかしロードセルの使用目的によっては、次に調べる様々な仕様が必要となる場合もあります。
001. 疲労試験
チェッカーなどの用途にロードセルを使用する場合は負荷回数が多いので疲労寿命が問題となります。
図 3.8 は LC4103-K100 の疲労試験データを表しています。
図 3.8 疲労試験データ
試験条件は定格 100Kg に対し200Kg を 1回/2秒のサイクルで負荷しその時の無負荷出力を記録したものです。
図 3.9 は定格荷重を 2回/秒のサイクルで負荷したものです。
図 3.9 定格荷重データ
002. 固有振動試験
動的な力を測定する場合や、振動している取付面にロードセルが取り付けられている場合には固有振動数の高いロードセルが適しています。
固有振動数の低いロードセルは負荷によるたわみが大きく、台はかり等のストッパーを有するものに適しています。
固有振動数は起歪体の構造、風袋(ふうたい)や測定量などの負荷の大きさによって変わります。
一般にはロバーバル型起歪体は固有振動数が低く、コラム型起歪体は振動数が高い傾向があり、負荷の大きいものの方が固有振動数も低くなります。
固有振動数が10Hz~数Hzの広い範囲のものもあります。
003. パワーオン時のゼロドリフト
電源投入直後のロードセル出力はゲージの温度の上昇などによりドリフトします。
004. 浸漬(しんせき)試験
ロードセルが水やそのほかの液体に浸漬する可能性のある場合はこの試験を行う必要があります。起歪体が浸漬されゼロ出力が大きく変動する時もあります。このような場合は起歪体の表面をコーティングしなければなりません。
005. 温度による影響
ひずみゲージは温度による影響を受けやすくロードセルのゼロ出力を変化させます。ほとんどのロードセルは温度補償しています。