最小計量値について
最小計量値(Minimum weight)とは、使用する天びんにおける測定の不確かさ(潜在的な誤差)を考慮し、最低限必要とされるサンプル量を指します。
測定するサンプル量が少なすぎると、それだけ計量値に占める不確かさの割合が大きくなり、分析結果が信頼の置けないものとなってしまいます。そのため、天びんに最小計量値が設定されている場合は、サンプル量(風袋を除く正味量)が最小計量値を下回らないよう、作業者は注意を払わなければなりません。
USP(米国薬局方)
製薬業界では、天びんの管理方法の標準として米国薬局方(United States Pharmacopoeia – USP)の第41章と第1251章が広く認知されており、最小計量値の算定の仕方もそれらによって定義されています。
第41章〈Balances〉によれば、正確な計量が求められるサンプルに使用する天びんは、その動作範囲(Operating range)において校正され、かつ下記の繰返し性(Repeatability)及び正確さ(Accuracy)の条件を満たしている必要があります。
繰返し性の条件
① 繰返し性は、1つの検査用分銅を10回以上計量して算定すること
② 計量された値の標準偏差を2倍し、それを望ましい最小正味量(その天びんでユーザーが実際に測定したい最小のサンプル量、Smallest net weight)で割った値が0.10%を超えないこと
これらを式で表すと、
(10回以上の計量で得た標準偏差×2)÷ 最小正味量 ≦ 0.10%
言い換えると、以下が成立します。
最小計量値 ≧ 2000×繰返し性(標準偏差)
なお、
③ 標準偏差が0.41d(d=最小表示)未満だった場合は、0.41dに置き換えて計算すること
とされています。
- 最小計量値が繰返し性により決定されるのは、測定量が小さい時、不確かさの要因として繰返し性が支配的になる(感度や直線性、偏置誤差は無視して構わない)ためです。
- 繰返し性は、検査用分銅の値に大きく左右されません。よって、最小計量値を求める際、無理に最小計量値に近い(つまり小さくて扱いにくい)分銅を使用する必要はありません。但し、あまり大きいものだと、偏置誤差その他の影響を受ける恐れがあります。そのため、天びんのひょう量の数パーセント程度が良いとされています。
- 繰返し性は、日々の環境条件(風、振動、温湿度変化など)や、作業者の計量スキルによって変動します。従って、実際に測定するサンプル量の下限値(最小正味量)は、設定された最小計量値ギリギリではなく、それを十分に上回る値にしておくことが推奨されます。
正確さの条件
① 検査には適切な分銅を用い、検査荷重値と表示値の差が、検査荷重値の0.10%以下であること
② 検査用分銅の質量は、天びんのひょう量の5%~100%であること
③ 検査用分銅の最大許容誤差もしくは校正の不確かさが、正確さ検査の許容限界(検査荷重値の0.10%)の1/3以下であること
最小計量値の例(参考)
お使いの天びんの最小計量値を決定するには、実際の使用環境にて測定する必要があります。また、特に最小表示0.1 mg以下の天びんは、周囲環境や天びん自身の設定に影響されやすいため、良好な環境にすることが重要です。なお、繰返し性(標準偏差)の測定には、ひょう量の5%以下の単一分銅で100 mg以上の使用を推奨します。
繰返し性(標準偏差)について
カタログに記載された繰返し性スペック 不偏標準偏差(分母がn-1)です。
最小計量値(参考値)について
天びんの感度が正しく調整(校正)され、良好環境下において、ひょう量5%以下の荷重にて実測した繰返し性から求めた最小計量値(参考値)です。
最小表示 | 機種型名 | ひょう量 | 繰返し性(標準偏差) | 最小計量値(参考値) |
---|---|---|---|---|
0.001 mg | BA-6TE | 6.2 g | 1 μg(1 g分銅にて) | 1.8 mg |
BA-6E | 6.2 g | 1 μg(1 g分銅にて) | 1.8 mg | |
BM-5 | 5.2 g | 1.2 μg(1 g分銅にて) | 2.0 mg | |
BM-20 | 22 g | 2.5 μg(1 g分銅にて) | 3.0 mg | |
0.01 mg | BA-225TE | 220 g | 0.015 mg(50 g分銅にて) | 20 mg |
BA-225 | 220 g | 0.015 mg(50 g分銅にて) | 20 mg | |
BM-252 | 250 g | 0.03 mg(100 g分銅にて) | 20 mg | |
GH-252 | 101 g(小レンジ) | 0.03 mg | 24 mg | |
GH-202 | 51 g(小レンジ) | 0.02 mg | 24 mg | |
HR-202i | 51 g(小レンジ) | 0.02 mg | 24 mg | |
GR-202 | 42 g(小レンジ) | 0.02 mg | 30 mg | |
0.1 mg | BM-500 | 520 g | 0.2 mg | 120 mg |
GH-200 | 220 g | 0.1 mg | 120 mg | |
GR-200 | 210 g | 0.1 mg | 120 mg | |
GX-324AE | 320 g | 0.1 mg(200 g分銅にて) | 120 mg | |
GX-324A | 320 g | 0.1 mg(200 g分銅にて) | 120 mg | |
GF-324A | 320 g | 0.1 mg(200 g分銅にて) | 120 mg | |
HR-250AZ | 252 g | 0.1 mg | 140 mg | |
HR-250A | 252 g | 0.1 mg | 140 mg | |
0.001 g | GX-203A | 220 g | 0.001 g | 1.4 g |
GF-203A | 220 g | 0.001 g | 1.4 g | |
FZ-200i | 220 g | 0.001 g | 1.4 g | |
FX-200i | 220 g | 0.001 g | 1.4 g | |
0.01 g | GX-2002A | 2200 g | 0.01 g | 14 g |
GF-2002A | 2200 g | 0.01 g | 14 g | |
FZ-2000i | 2200 g | 0.01 g | 14 g | |
FX-2000i | 2200 g | 0.01 g | 14 g |
分析天秤使用時の注意点
マイクロ(ミクロ)天びんをはじめとする分析天びんを使用するにあたり、1µg~0.1mgの精度を求めるためには、様々な誤差 要因の軽減や、様々な影響をおさえる必要があります。