開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第31回
電動ピペット用充電ハンガー

シリーズ 『開発者の思い』 第31回
2015年01月23日

電動ピペット用充電ハンガー

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約5年前となる、最初の『開発者の思い』はマイクロピペット用管理ツールに ついて書いたものでした。2015年の初回となる今回は、今までにない電動マイクロピペット用充電器についてまとめました。本原稿は昨年10月にほぼ書き上げていましたが、昨年末から公私共に忙しくなり、原稿の状態で3カ月間止まっていたことをお詫びします。

マイクロピペットは、マイクロ天びんを代表とする分析天びんの使用現場で、必ず使われている機器となります。このピペット市場では売れない機器として認識されている『電動』シングルピペットは、国内市場シェアがわずか1%と言われています。この電動シングルピペットを、あえてオリジナル商品として新規開発し、販売を開始しました。ピペットは、A&Dにとって未知で、かつ新たな市場となりますが、今まで実績のない市場に参加する為、オリジナルピペットの商品企画を行い、量産までの工程を計画的に進めました。この無謀とも思われる新しい挑戦への評価は厳しく、特にピペット業界に詳しい社内外の人たちからは、『今頃何を言っているのか、売れるはずの無い商品となり、必ず失敗する』と言われました。社内を含め、賛同者は当初ほとんどおらず、私自身も必ず開発したピペットが売れるとの確信は持っていませんでした。

いつも思うのですが、今までにない機能を持つ新製品開発や新市場参入は、山登りに似ています。ここで言う山登りとは、その個人にとって冒険性を含む山行きを指します。冒険性を未知の分野に進出する事と定義すると、冒険的山登りでは、本人の技量や体力、過去の経験や結果に対する反省が不十分であると、山頂にとどかず、仮に登頂しても無事下山できなくなる事があります。新製品開発でも新規分野での新製品開発や、今まで以上の性能や機能を持った製品開発を目標にすると、失敗に終わる事があります。ですから、冒険的登山で登頂し無事下山するには、新製品の開発と同様に最初に目標設定し、事前調査及び目標達成に必要となる危機管理と、新たな技量の習得が必要となります。また目的達成には色々な問題や状況変化に対応できる、柔軟な処理能力も必要となります。この他、困難に直面した時に必要となる忍耐力と、あきらめない気持ちも、重要な要因になります。

しかし、多くの要素のなかで一番大事なのは、製品を開発したい、山頂に立ちたいという個人の持つ熱意ではないかと思われます。

私の経験から言うと、もしその開発や登山に失敗しても、その状況下で、できる限りの努力をしていれば、その次には成功する可能性が高いと思われます。それは人が失敗からしか学ぶことができず、失敗した過程や経験を自身で客観的に分析判断して受け入れることができれば、その次はより成功する可能性が高くなるという事実が証明しています。

今回目標設定した電動ピペットでは、自社ブランドにこだわりました。それは6年程度前に販売を始めたピペット管理用ツール関係の企画段階から、開発、販売までの全工程に関わったことで、市場を占有する手動ピペットの潜在的問題点に気が付いていたこと。事前の市場調査に長時間をかけた結果、既存の電動ピペットの問題点についても明らかとなったこと。これらの事情から、独自性が高く、かつ使用現場に潜在する問題を解決できる、新たな電動ピペットを開発すべき、との結論に達しました。

新たに開発した電動ピペットは、連続分注精度が高く、壊れにくく、かつ操作が容易で腱鞘炎になるリスクがほとんどない、などの特徴が認識され、予想以上の高評価につながりました。本体開発が終わり、次の問題として、ピペットを垂直に保持し、その状態で容易に充電できる、便利な充電器の開発が必要になりました。既存の電動ピペット用充電器は、いずれもスタンドタイプで大きく、4本程度を同時に充電できる形式のものがすべてでした。

研究室を回ると、この充電器が実験テーブル上に広い場所を占有し、価格もピペット本体と同程度と高く、設置自由度の低いことにも問題があると考えました。そこで、机上に余分なスペースのない研究室を想定して、どこにでも配置できる充電ハンガーを開発することにしました。この充電ハンガーは、手動ピペット用ハンガーを充電可能とし、コンパクトで机の側面や薬品棚の壁面、実験台に面する試薬配置パネルなど、何処にでも取り付けができ、また一つの電源から複数台を中継接続できる連結可能なものとして企画しました。この企画内容を目標をとして、今までにない新しい使い勝手となる、配置が自由に行え、少スペースでコンパクト、かつ複数台を連結使用できる電動ピペット用充電ハンガーを量産し、市場投入を開始しました。

充電ハンガー

今回開発した充電ハンガーについて詳しく説明します。充電ハンガーはMPAシリーズを垂直に置く場所を提供すると同時に、MPAを置くだけで自動的に充電を開始します。ですから実験が終了した夕方に、ハンガーにMPAをぶら下げて帰るだけで、翌朝はフル充電の状態でMPAが使用可能となります。

また、ピペットは複数台使われるのが一般的ですので、複数の充電ハンガーを並べる事で、同時に複数台のMPAを充電できます。ハンガー複数台にそれぞれAC電源から電力を供給するのは煩雑となるので、1台のハンガーに電源供給後は、そのハンガーを親として、複数台のハンガーを子機として、連結ケーブルで繋ぐことができるようにしました。また、ハンガーに電源が供給されている時には、ハンガー上部のLEDを点灯させることで、電源供給されていることを確認できるようにしました。このような展開とすることで、仮にハンガー1台が故障しても、すべてのハンガーが使えなくなるリスクを回避しました。これらの今までに無い機能を特許として申請しました。また、商品化により、研究現場での利便性提案を継続して行きたいと考えています。

MPAと充電ハンガーを利用することで、研究現場でのピペット作業をより正確に、手に負担なく、充電方法を含めて、簡便に使用できる方法が確立できたと考えています。この先もピペットの容量を増やした機種追加や、マルチタイプのシリーズ化、今までのピペット業界には無かった、連結使用できるピペットスタンドなど、色々と企画&開発を進めたいと思っています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)