開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第24回
生産ラインで使われる計量器についての考察
生産ラインで使われる計量器についての考察
世界の生産拠点として韓国、台湾、中国など東アジアを中心に、生産設備への投資が続いており、この事に関連して生産ラインでの計量器の使用場面が増えています。特に日本国内の設備増設が低迷しているなか、日本で設計製造された生産設備が上記東アジア地域に設置される場合や、ラインに使用される主要機器が直接海外へ輸出され、現地生産される設備へ導入される機会が増えています。
生産対象となる分野は、リチウムイオン電池、ICなどの電子部品、液晶、LED、太陽光発電などの関連部品生産となり、これらの新分野は、いずれも日本メーカが市場開拓し、国際市場では敗退した新規市場となっています。
この市場で、面白いと思われるのは、日本は最終製品で市場シェアを落としても、その生産財となる設備では、現在もアジア各国と競合し、また、その設備の要となる各種センサーや計量器、吐出装置などのキィ部品では、未だ日本製が優位にある事です。 これらの事実は、日本の大手弱電メーカが、韓国、台湾、中国の新鋭アジア勢の黒物家電に市場を奪われ、いずれも赤字となり苦境に立っていることと無関係ではありません。
例えば液晶テレビの分野では、機器を構成する硝子、フイルム、接着剤や液晶用レジストなど、素材を製造する日本メーカの輸出が好調な事実があります。この現象は、過去ファクトリーオートメーション分野で第一世代のロボットが、※1また次にはPCが、部品の組み合わせで製品化されるようになった状況を連想させます。それは分解しても技術の見えない要素:ブラックボックスの組み合わせで、機器が完成する場合、ブラックボックスメーカのみが優位に立つ事を意味しているからです。
- ※1
- 1980年代、日本では世界に先駆けて、生産現場でのロボットブームが起きました。数多くのスカラーロボットが生産財として提案されましたが、多くのメーカは1社の制御機器や複数社のサーボモーターを組み合わせて製品化した為、価格競争を招き倒産しました
リーマンショック、その後の円高と日本メーカのガラパゴス市場対応が、弱電各社の苦境を産んだとの論調があります。しかし、過去の出来事から推測される結論は、新商品の企画力が無くなった状況下で、パーツのブラックボックス化が進み、日本の機器メーカの技術優位が崩れ、アジア各国との品質の同一化が進み、価格競争力を失った結果が、市場シェアを奪われ、長期低迷に繋がったと言えます。また言い換えると、古くはイギリス、米国の製造業衰退の延長線に、日本の産業界の中でも特に製造業の衰退が繋がっていると思われます。
この展開は、車業界にも波及すると言われており、複雑な内燃機関となるエンジンを積まない電気自動車市場拡大は、モータ、バッテリー、シャーシなどのユニットの組み合わせで、製品が完成される市場になりつつあると言えます。
このような状況下で、今後の日本は、製品の企画力を高めると同時に、短時間では追いつけない素材に近いパーツや要素のブラックボックス化を進め、容易に真似できない分野での専門技術確立を急ぐべきであると判断されます。また、企業の規模に関わらず、最終製品を売り込める市場が限定され、単品製品での売り上げシェアが大きくなった企業は、往々にして既に新たな分野での製品企画力や開発力が衰退しており、発展の余地ある市場への適応力が無くなっている場合が多く、今後の企業活動維持が難しい問題も考えられます。
前置きが長くなりましたが、自動機に計量器を利用する場合の注意点その他について、以下にまとめてみました。
自動機の分野では、最小表示が1μg(1gの100万分の1)となる通称マイクロ(ミクロ)天びんから、秤量が数十kgとなる大型の電子天びんまでが使われています。特にマイクロ天びんは、以前は有機微量分析などの特殊分野での使用実績しか無く、主に数mgの分析用サンプル計量に使われていたのみでした。ところが、今まで主力であった大型テレビの生産が、ここ数年でスマートフォンなどの小型液晶に展開し拡大した結果、その画面に塗布されるレジストインクの管理量が、数100mgから数mgに縮小しました。そして、計量器に要求される計量表示も0.1mgから0.001mg(1μg)へと高感度化した経緯があります。
特に1μgの計量では、人の体温や呼吸、人の動作に伴う振動や圧力変動、またエアコンによる微風や温度制御することによる温度のわずかなリップルなどが、計量誤差となり繰り返し性を悪化させる要因であることが明らかとなっています。
現在ライン用計量器で感度1μgの商品を出しているのは、世界に数社のみであり、い ずれの計量器メーカも、出荷前に機器の性能を十分に社内で確認をしています。弊社でも丸1日に近い時間をかけて、1台ずつ自動機による連続した繰り返し性のデータを取り、製品として出荷しています。微量計量の誤差が、主に人を原因としており、人の手により1μgの繰り返し性を確認し、性能を問題視することは、特に自動機用計量器の場合にはお勧めできません。つまり実使用時には人手で操作することは無く、受け入れ検査時のみ上記外乱のある状態で検査する事の意味は無いと言えます。
自動機に組み込んだ実機で起きる問題と、その問題の解決方法は過去の経験から以下に集約されます。
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振動
自動機では計量器と同一スペース内に多くの駆動系が配置され、計量器にも取り付 けベースと計量ワークの駆動系からの振動が伝わる場合が多い。これらを防ぐには駆動系の動く時間と計量時を時間で分離し、取り付けベースと計量器の間に振動アダプタを採用する、計量されるワークの動きを、計量器の近くではゆっくりな動きにして、空気の移動(風圧)を弱める対策が効果的です。
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風と温度変化
自動機では、電源部などの発熱源がある為、ファンで空気を対流させている場合が多く、この風対策としては、計量器全体を覆う風防の設置や、皿周りへの風防の追加が有効となります。この時注意しなければならないのは、わずかな風防の隙間でもμgには影響を及ぼすことが確認されており、例えば1面が開放されていても、風の通路を遮断する意味で、可能な限り風防は袋小路として配置する事が重要です。風の侵入を防げれば、多くの場合に起きる対流による温度変化を抑えることも可能となります。
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静電気
自動機には当然ですが、ワーク他の動きが伴います。特に硝子や樹脂の容器は搬送による摩擦で帯電することが知られています。またドライ環境となる電池の生産ラインでは、電池のホルダーとなる樹脂製治具が容易に10kV以上に帯電する事が確認されており、その場合は静電気による力で、数10mgレベルでの計量誤差が発生する場合があります。低湿度の環境下では自然放電は期待できないので、積極的な除電対策が必要となります。この場合、除電対策を最小のコストで実施する為に、静電気の可視化を可能とする静電気測定器の利用と、除電効果が強く風を送る必要のない、直流式除電気の導入が効果的である事が確認されています。※2 静電気測定器/除電器
- ※2
- 静電気測定器、除電器:AD-1684:非接触式静電気測定器/AD-1683:直流式、無風・強力イオナイザー
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過荷重
特に計量物が数kgを越える場合には、過荷重による計量器の破損が起きる場合があります。過荷重耐性についての実験結果は、金属の疲労破壊実験となり、色々な条件が因子となり実験の再現性そのものが問題となります。計量器の使用現場では、壊れないことを前提としてシステムが設計されており、計量機器間での数倍の耐久性評価結果などは、機器間の個体差の問題もあり、実使用現場では意味を持たない場合があります。また、建前はともかく機器はいずれ破損しますので、壊れた時のメンテナンス性(費用×納期)の良いことが重要となります。
一般論として、人手による計量物の皿上負荷を1とすると、エシリンダーなどの制御不能なアクチュエータの利用による皿上負荷は、同一条件下で3倍程度の荷重を計量器に与えることが確認されています。すべての計量器は、静荷重下での負荷を想定しており、その時の加速度は1G(1000gal)相当となります。つまり自動機に因る皿上に加わる加速度は数Gとなることが予想され、自動機に計量器を導入する場合は、機器の秤量が計量物の数倍となる計量器を準備する必要があります。つまり人手による作業と同等の安全率を確保するには、自動機に導入する計量器は約2、3倍の秤量となる機器を選定する必要があると言えます。また、衝撃荷重は荷重のピークが鋭く、大変大きな値として確認されています。そこで耐衝撃アダプタを荷重伝達経路となる皿と計量器間に設置することで、安全率を飛躍的に改善できる事が確認されています。
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校正について
自動機に組み込んだ計量器は取り出すのが難しい場合が多く、耐久性と共に計量値を自動校正したいとの市場要求があります。しかし、実際に必要とされる計量精度は最小計量値から言っても、繰り返し性の3000倍もあれば十分となります。つまりマイクロ天びんでは10mg、セミマイクロ天びんでも100mg、一般的な0.1mg表示の分析天びんでも、数gを計量することが最終目的として導入・使用されている事実があります。一方、計量器の感度ドリフトは一般的に2ppm/℃(2×10E-06)となりΔ10℃の温度変化があったとしても、計量サンプルが1gの場合で1g×20E-06=0.00002g、つまり温度変化が10℃あっても、発生する計量値の差は1gあたり0.02mg(20μg)にすぎない実態があります。つまり、実際の天びんでは秤量付近の質量を計量するのではなく、僅かな量を確定するために使われているので、上記技術的な検討では、温度変化に対する校正の必要は無いと言えます。また、最近の天びんでは計量値の経時変化はほとんど発生しない事が確認されており ※3、計量物の落下や衝撃的負荷など、破壊に近いトラブル発生時を除き校正の必要は無いと判断されます。
- ※3
- 耐久試験結果のまとめ:AD4212C-300について3000万回(1年間)の耐久試験を実施し、200g分銅で最大5mg(5目盛り)の計量値ずれが確認されました。詳細についてはホームページ内を確認してください
以上をまとめると、自動化ラインでのより精密な質量計測場面が増えており、その背景にはより高い品質と生産性を実現したいとの要求があります。質量計測は光学式などと異なり、低価格で高精度に、固体・粉体・液体の表面から内部の欠損に至るまでの全量管理が容易に行える長所があります。また、その一方で計量時間が長い、設置環境の影響を受けやすい欠点もあります。特に設置環境の改善については、各種の解析用ツールが既に用意され、1μgの計量場面でも安定した計量が可能な状況となっています。既に確立されたこれらの技術を利用し、より安定で高速化した計量作業が実現できるよう、計量器メーカとして市場対応を進めていく所存です。