バランスエンクロージャー:AD1687+マイクロ天びん:BM20 バランスエンクロージャー:危険物質の計量について - シリーズ 『開発者の思い』 | 株式会社エー・アンド・デイ

開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第23回
バランスエンクロージャー:危険物質の計量について

シリーズ 『開発者の思い』 第23回
2013年03月04日

バランスエンクロージャー:危険物質の計量について

バランスエンクロージャー
バランスエンクロージャー:AD1687+マイクロ天びん:BM20

2年前にマイクロ天びんBM20/22を売り出しました。この分析天びんと呼ばれる精密な計量器の販売に伴い、A&Dでは以下2点の知見を持つ事になりました。その1つが、マイクロ天びんの計量を安定させるのに必要となる環境についてです。また、もう一つはマイクロ天びんで計量される試料に関する知識を得た事です。

今回は、これらの市場で得られた情報をまとめて、より良い計量を実現する指針となる具体的な提案内容についてお話します。

計量環境に関する机上の知識から、市場に出向き環境測定を実施し知見を持ち、そこから潜在する需要を掘り起こす商品化までの行程は、長い時間と胆力を用する仕事となります。しかし、その展開は、機器メーカーにとっては会社の存亡をかけた大変重要な課題となっています。このような過去の市場調査や新商品の開発&販売を通して、具体的な計量環境改善案として以下手法の提案を行いました。

  1. 計量サンプルに対する静電気の測定や静電気除去方法の提案
    静電気測定器:AD-1684/除電器内蔵分析天びん:BMシリーズ/除電器:AD-1683
  2. 天びんの実使用環境下での24時間に及ぶ計量性能の測定&評価
    AND-MEETの実施
  3. 計量環境の測定を目的とした、温度/湿度/気圧/振動の測定と計量値の同時記録の提案
    計量環境ロガー:AD-1687
  4. 計量環境改善ツールとして卓上風防/計量器専用の除振台を提案
    卓上風防(風対策):AD-1672/除震台(微振動低減):AD-1671

これらのツールは、マイクログラムを計量する現場で効果を発揮し、使用現場での最少計量値10mg以下となる理想的な性能出しを可能としました。また一方では、これらのツールを市場提案する事でマイクロ天びんの使用現場での計量ニーズを知り、それがマイクロ天びんを導入した目的を理解する事に繋がりました。

例えば、マイクロ天びんは微量計量の必要な現場で使われ、その計量サンプルは、食品添加物や蛋白質などの有機微量分析や、汚泥、土に含まれる僅かな元素を分析するときの試料作りに利用されます。金属表面に発生する僅かな錆や、太陽光発電用パネルの表面にコーティングされる金属薄膜の膜厚管理、リチウムイオン電池用セパレータの表面処理の評価、スマートフォンに代表される小型パネルのレジスト液量の管理、今話題となっている空気中を漂う微粒子(PM2.5 ※1)をトラップしたフィルターの計量や、車から排出される微粒子(Euro5 ※2)の計量などとなります。

※1
PM2.5 :大気汚染の指標、粒子状物質(Particulate Matter)2.5μm以下の粒子が肺に入ると肺胞から排出され難く、肺がんなどの健康被害を生じる。この為、従来から幹線道路沿いの大気汚染が問題視されている。
※2
Euro5 :欧州連合規制による自動車排気ガス規制、Euro5:粒子状物質の排出量5㎎/㎞を規定している。

以上の他、最近ではマイクロピペットの管理用として、吐出容量が数μLとなる精密なピペットの容量測定分野においても、マイクロ天びんの利用が始まっています。

これらの分野において、既にBM20/22は産業総合研究所を始めとする、国公立の研究機関や大学、臨床試験機関や公の環境計測機関、大手自動車メーカーやピペットメーカーなどへの納入実績があり、一定の市場評価を得ることが出来ました。そして、これらの市場とも関連しますが、製薬やバイオ関連を主とした新たな市場のニーズが認識され、その市場とは危険物質の計量となります。

ここで言う危険物質とは例えば、高生理活性物質となる抗がん剤や薬品、放射能を含んだ塵をトラップしたフィルター、アスベストを含んだ素材、単体のナノ粒子材料、ベリリウムやカドミウムなどの有害金属の微粉となります。特に抗がん剤は、粉体で生産され、液体に溶かして使用されますが、研究段階や生産現場では日常的な計量作業が必要となり、計量作業者の被曝が懸念されています。

既に、上記危険物質の計量現場ではグローブボックスの使用や、ドラフトチャンバーの導入がなされている事実があります。しかし、グローブボックスは危険なウイルスなどを封じ込める装置であり、その取扱いが大変難しい問題があります。またドラフトチャンバーは有機溶剤などの有害な気体や悪臭を、排出する目的で使用されています。ドラフトチャンバーでは、気体の排出が可能ですが、強力に吸引される空気流により、機器内に設置された天びんの計量値が安定しない問題があります。また、危険物質の封じ込めに対する機能の無い問題もあります。

この危険物質を安全に管理しながら、計量作業を行う装置としてバランスエンクロージャーがあります。A&Dでは、このバランスエンクロージャーを昨年9月のJASIS(旧分析展)において参考出品し、天びんメーカーとして日本国内で初めて市場へ提案しました。

バランスエンクロージャーを和文にすると、「天びんを封じ込める機器」となります。つまり、精密な天びんを内部に設置し、計量作業者の被爆を防ぎながら、高生理活性物質などの計量を実現する装置であると言えます。

バランスエンクロージャー:AD1673の封じ込め機能については以下の動画を参照してください。

バランスエンクロージャー:AD1673の封じ込め機能の動画

バランスエンクロージャーに必要とされる機能を仕様としてまとめると、以下の4点が重要となります。

  1. 機器外部への粉体飛散を防ぐ為、一定以上の層流となる空気流量を確保
  2. 危険物質を集めて集中トラップできる強力なHEPAフィルターユニットを装備
  3. 危険物質による機器の汚染状態の明確化が可能
  4. 安全、簡単&低コストを実現したメンテナンス性

これらの要求を満足できる機器として、AD1673を商品化しました。

AD1673では、床面を除く全ての構成部品を透明な樹脂製とし、一目で汚染状態の確認が出来る様にしました。また一定の風速を確保する為の風速計を備え、HEPAフィルターの交換がユーザーで可能となるように、エンクロージャー本体とHEPAフィルターユニットを別置きとし、両者をダクトで繋ぎました。この事で、吸引状態のエンクロージャー本体からダクトを外し流路を塞ぎ、ダクトと一体化された小型HEPAフィルターユニット+ダクトの一体化交換を可能にしました。 HEPAフィルターは外を覆うカバーで周囲から隔離されており、フィルター表面に直接手を触れない、バグインバグアウト方式による交換も可能としました。また、エンクロージャ本体も据え置き型とせず、テーブルの上に載せられる仕様としており、設備としての移動や後付けができる特長もあります。

マイクロ天びんの使用される分野は、環境計測の必要性や新素材関係の市場活性化により拡大しており、この傾向は当分続くと予想されます。この時、新たに必要となる各種の周辺機器を揃え、総合的な計量環境改善を目的とした市場サポートを、今後も進めて行きたいと思っています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)

(バランスエンクロージャーAD1673は2022年3月に生産を終了しました)