開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第12回
BMシリーズの提案 その2:天びんの設置環境評価について

シリーズ 『開発者の思い』 第12回
2011年03月10日

BMシリーズの提案 その2:天びんの設置環境評価について

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前回の第11回に引き続き、「BMシリーズの提案 その2:天びんの設置環境評価について」説明します。
2010年12月にマイクログラムの感度を持つBMシリーズの販売を開始しました。この天びんの開発目標は、①静電気対策としての除電機能の標準化 ②マイクログラムを計量する使用現場での性能証明 の2点となりました。この2つの機能の付加は使用現場での潜在的問題を解決するソリューションの提案と言い換える事ができます。

マイクロ天びんの使用現場では、天びんを設置した環境で、カタログスペックとなる計量性能(特に繰返し性)が確保できるのかが、最も重要な問題となります。例えば、BM20では天びんに要求される感度が高く、秤量20gを最小表示0.001mgで割った比:分解能が2000万分の1に達する事、1μgが僅かな質量となる為、温度、湿度、気圧などの変化や部屋のエアコンによる微風、設置台のわずかな揺れが外乱として大きく影響する事が知られています。以上の外部要因は、マイクログラムにおける計量値(特にゼロ点)の不安定を招き、繰返し性不良などの原因となります。

天びんの設置環境に関わる問題は、マイクロ天びんの感度が人間の感性を大きく超えていて、人には感じられない環境の"ゆらぎ"を検出してしまう事が原因となっています。この為、天びんの使用者には感覚では容易に解決できない問題となっており、天びん操作者は絶えず不安を抱えた状態となっています。そこで、BMシリーズの販売を始めるに当たり、これらのエンドユーザーの不安を解消する手段として『計量環境評価ツール:"AND-MEET"(Measurement Environment Evaluation Tool)を市場に提案し、実際に使用環境のモニターを開始しました。

このAND-MEETでは、天びんを設置した環境を連続的にモニターし、それと同時に天びんに内蔵した分銅を自動で昇降します。その事で一定時間の温度変化と、それに対応した計量値の繰り返し性を評価する事ができ、環境と計量値をモニターした結果から、環境の与える誤差要因を明確にすることに成功しました。例えば、温度変化の大きな時や、人が職場に出勤しエアコンの電源を入れる事により、その後、温度は安定しても風の影響で天秤の感じる温度にリップル(繰返し起きる温度の微小変化)が発生する問題、部屋のドア開閉による圧力変動、低気圧の通過や遠くで起きた地震による建物の揺れなどにより、計量値が不安定になる事が明らかになり始めています。

また、計量結果に与える誤差要因を明確にする事で、計量値を安定させる方法を具体的に提案する事が可能となります。それは、例えば除振台の導入や、エアコンによる風圧を低減させる為の天びん外側の覆い(外風防)の設置、人が近くで作業する場所や、振動源となる分析機器類から設置場所を離す、外気温による室温変化の小さい場所へ天びんの設置場所を変更するなどとなり、上記対策による具体的な効果を評価する事もできます。

具体的にAND-MEETを利用して得られた測定結果について説明します。Fig1はマイクロ天びんとなるBM22について、2011年2月17日(木)午後5時から翌日となる18日(金)午後5時までの24時間の温度と、計量値(ゼロ点、スパン値=秤量-ゼロ点)のデータをグラフ化したものです。

Fig1 温度、ひょう量(ゼロ点/スパン値)の24時間変化

天びんは17日午後5:00に通電され、その後、内蔵分銅が自動運転により40秒を1周期として繰返し昇降され、得られた気温とゼロ点、及び秤量値が、データとして計量データロガー:AD1688により記録されます。気温は午後5時以降、19℃から22℃まで5時間程度で上昇し、ゼロ点も天びんの通電直後から大きな変化を見せています。比較的気温が安定した17日の23時以降では、ゼロ点も安定し、スパン値もそれに伴い変動が減り安定していきます。

翌日18日の朝9時以降は、出勤した人がエアコンのスイッチを入れた影響と思われますが、温度が午後4時前後まで特に安定し、その後、急激な温度上昇が起きてゼロ点、スパン値の変化が起きています。このデータはエンドユーザーとなる大学の研究室で得られたものとなり、温度変化の原因は最終的に確定できませんが、ある時間帯で急な温度変化の発生する計量環境であると言えます。

Fig 2は温度変化とスパン値の繰返し性をグラフ化したものです。スパン値の繰返し性とは、秤量-ゼロ点となるスパン値を計算し、連続したスパン値10個についての繰返し性(再現性)を標準偏差:σで表記したものです。

Fig2 温度変化に対するスパン値の繰り返し性の変化(24時間)

各点が各10個のスパン値の標準偏差を表しています。ここでデータを取った分析天びんBM22は秤量:5g、感度:1μgのマイクロ天びんとなり、そのカタログスペックは繰返し性が1g分銅にて4.0μgと規定されています。

Fig 2からは通電直後から6時間程度は気温の変化もあり、繰返し性が平均で4.0μg以下とならないことが理解されます。それ以降は温度変化が少なくなり、スパン値が安定し、カタログスペックとなる4.0μg以下の繰返し性の得られることが明らかになりました。また、18日の夕方5:30以降は、再び急な室温上昇によるゼロ点の変動と、それに伴う繰返し性の悪化が確認されます。

以上から天びんの性能を安定させるには、①急な温度変化を与えない。 ②特に分析天びんでは通電時間を十分に取り熱平衡状態で計量する。の2点が必要な事がグラフから裏付けられたと言えます。この研究室では夕方5時以降の温度上昇の原因を取り除く事、または日中、特に午前10時から午後5:00までの計量環境が安定している時間帯に、計量作業を行う事により、マイクロ天びんのカタログスペック相当となる計量性能の得られることが明らかになりました。

ここでは紙面の都合で割愛しますが、AND-MEETの利用により、遠くで起きた地震による繰返し性の悪化、低気圧の通過による数時間に及ぶ繰返し性のバラツキ現象が確認されています。これらの情報を公開することにより、過去天びん使用者が漠然と持っていた分析天びんの性能に関する不安を数値化し、その後グラフとして公開することができるようになりました。この一連の作業により計量環境の問題点を明らかとし、改善すべき環境整備の方向を示し、より高い精度で安定した計量が行えることを可能としました。以上の一連の対応により、最終的に天びん使用時の不安を取り除き、使用現場での利便性を改善したいと思っています。

(第一設計開発本部 第5部出雲直人)