開発ストーリー・シリーズ「開発者の思い」:第11回
BMシリーズの提案 その1:除電機能の追加
BMシリーズの提案 その1:除電機能の追加
2010年12月にマイクログラムの感度を持つBMシリーズの販売を開始しました。この天びんはA&Dのフラッグシップとなる分析天びんとして位置付けられました。BMをフラッグシップとしたことは、単にこの製品が国産唯一のマイクロ天びんであるためではありません。この天びんは、研究開発や分析業務を行っている国内最先端の分野で使われる事を想定しており、その開発目標とは、①静電気対策、②ユーザーの使用環境における計量性能の公開でした。今回の『開発者の思い』では、この問題解決に至ったプロセスを含め、その問題解決の具体的内容を、第11回では静電気対策、次回の第12回では使用環境における計量性能の公開について説明したいと思います。
BMシリーズの企画段階でマイクログラムの計量ニーズについて調査したところ、現在以下の分野にマイクログラムの計量ニーズのある事が明らかになりました。
- 薬剤や食品添加物の分析で微量の粉体を計量する
- バイオ関係の研究やタンパク質の質量分析で、マイクロピペットを利用して計量サンプルをエッペンチューブなどのプラスチック容器に入れて計量する
- 製薬関連では薬包紙などにサンプルを載せて計量する
- 大気中の環境汚染物質を測定するために、テフロン(PTFE)などで作られたフィルターを利用して粉塵をトラップしその質量を計る
- 液晶やLED、また電子部品などの生産ラインで、ディスペンサーから吐出される微小な液体を計量する
このようなマイクロ天びんの使用現場では、粉体、プラスチック容器、薬包紙、テフロンフィルターが大変帯電し易い事が問題となっています。また通常サンプル量も10mg以下となり、天びんに求められる最小表示は0.01~0.001mgから、場合によっては0.0001mgの感度が必要となっています。0.001mg=1μgとは、1gの質量を持つ1円玉を100万分の1に分解した1個の重さとなります。一方静電気の影響による計量誤差は数十mgに及ぶ事がありますので、静電気への対応をせずに安定したマイクログラムの計量を行う事は現実には不可能となっています。
上記マイクログラムの計量現場では、測られる量は少ないのですが、要求される検出感度(最小表示)が大変小さな量になりますので、サンプルやサンプルの容器が帯電する事により正確な計量が出来ない問題が常態化しています。また、生産ラインでの微量な液体、粉体、個体の計量でも、生産ラインがクリーンルームとなり、かつ品質維持の為、完全な除湿がなされ、湿度0%の環境でマイクロ天びんが使われている事があります。特にクリーンルーム内では発塵や金属の異物を嫌う場合が多く、駆動系にはポリアセタールなど摺動抵抗の低減と、金属材料からの発塵の問題を同時に解決できる材料が多用されています。しかし、湿度の低い環境下では樹脂は帯電しやすく、例えばバイアル瓶などの計量容器が搬送により帯電し、計量値が不安定になるなどの問題が起きています。
以上の背景からBMシリーズでは全機種に静電気対策として直流電源方式となる除電機能を標準化しました。直流除電方式は、発生するイオン量とその到達範囲が広いので風を送りイオンを飛ばす必要がなく、試料となる粉体が空中を舞う事がありません。また、直流除電方式は除電能力が高いので、約1秒での除電が可能です。そこで風防ドアを1度開閉する間に除電して計量する事ができます。また、専用となる除電室を設けた事で、多くのサンプルを同時に除電室に入れ1度にすべてのサンプルを除電し、その後繰り返し計量する事ができます。このようにサンプルを除電室に置くことにより、計量時の予備室として利用して、除電と同時に秤量室とサンプルの温度をなじませる事ができます。この結果、1℃以下のわずかな温度差による空気の対流を減らすことで、計量誤差を低減できる仕様となっています。
マイクロ天びん(BM20/22)以外のBMシリーズでは、風防内を秤量室と除電室に分ける仕切り版を取り外す事で大きな秤量室として使用できます。この状態とすることで秤量室のサイドドアを開けて、サンプルを秤量室上部にかざし、除電し、そのまま計量皿に載せる一連の動作で除電⇒計量への作業を終える事ができます。また、イオンを発生させる放電電極(針)を人の手に触れないような構造でユニット化することにより、ユニット単位での放電針の交換を可能としました。以上の対応により、CEマークに適合する安全性とユーザーレベルでのメンテナンス性を確保しています。
静電気の問題を意識されているユーザーや、乾燥する冬場に計量値が不安定になると感じられている研究者に、BMの除電能力を役立てていただき、その結果、より安定した計量業務が実現されることを希望しています。